借地権を地主に買い取ってもらうと税金はどうなる?税額を左右する「売買価格=時価」を不動産鑑定士が解説
借地権を地主に買い取ってもらうとき、どんな税金が関係するのか。税目の種類を整理したうえで、税額の前提となる売買価格=時価の重要性と、親族・同族間の取引で時価から離れた価格にするリスクを鑑定士の視点で解説します。

「借地権を地主さんに買い取ってもらう話が出ているけれど、税金はいくらかかるのだろう」「親族の地主に安く売ったら、あとで税務署から何か言われないだろうか」。借地権(建物を建てるために他人の土地を借りる権利)の手放し方を考え始めたあなたは、こうした不安をお持ちではないでしょうか。
先にお伝えしておくと、この記事では税額の計算はしません。税額は取得費や特例の適用可否など個別の事情で大きく変わり、判断は税理士の職域だからです。そのうえで、私たち鑑定士が断言できることがあります。どの税金も、計算の出発点は「いくらで売買したか」、そしてその価格が「時価」として説明できるかどうかです。本記事では、借地権を地主に買い取ってもらうときに関係する税金の「種類」と、税額を左右する前提としての時価の考え方を整理します。
借地権を地主に買い取ってもらうときに関係する税金の種類
売る側(借地人)にかかり得る税金
借地人が個人の場合、借地権の売却による利益は原則として譲渡所得(資産を譲渡して得た所得)として扱われ、所得税・住民税の対象になり得ます。所得税法第33条は、譲渡所得の対象となる「資産の譲渡」に、建物の所有を目的とする地上権・賃借権の設定を含むと定めており、借地権が譲渡所得の世界で扱われる資産であることがわかります。
借地人が法人であれば、売却益は法人の所得の一部として法人税等の計算に含まれます。借地権と一緒に建物も売る場合は、建物部分の譲渡も同じく課税の対象になり得ます。
買う側(地主)にかかり得る税金
地主の側では、借地権を取得して土地が完全な所有権に戻ります。建物も一緒に買い取る場合は、建物の所有権移転登記に伴う登録免許税や、不動産取得税が問題になり得ます。また、売買契約書を作成すれば印紙税がかかります。地主が法人の場合は、取得した借地権や建物の帳簿上の扱いも論点になります。
税額はここでは計算しません
税率、特例(居住用財産の特例など)が使えるかどうか、取得費がわからない場合の扱いなどは、個人・法人の状況によってまったく異なります。具体的な税額や申告方法は、必ず税理士にご確認ください。 当事務所がお手伝いできるのは、その計算の土台となる「価格」の部分です。
税額を左右する前提は「売買価格=時価」
地主に買い取ってもらう価格はどう決まるのか
借地権を第三者に売る場合と、地主に買い取ってもらう場合とでは、成立しやすい価格が異なります。地主が借地権を取得すると、底地(借地権の付いた土地の所有権)と借地権が一つになり、土地を自由に使える完全な所有権に戻るからです。
不動産鑑定評価基準は、限定価格(特定の当事者間でのみ合理性が認められる価格)の例として「借地権者が底地の併合を目的とする売買に関連する場合」を挙げています。また、底地を借地権者が買い取る場面について、同一所有者に帰属することによる「市場性の回復等に即応する経済価値の増分」が生じる場合があることに留意すべきとしています。地主が借地権を買い取る場面でも、権利が一つにまとまることで価値が回復するという構造は同じです。この増分をどう考えるかが、地主との価格交渉の核心になります。詳しくは地主・借地人間の買取で解説しています。
借地権割合は課税上の割合であって取引価格ではない
路線価図に記載された借地権割合(60%、70%など)を更地価格に掛けると、借地権の大まかな見当はつきます。ただしこれは相続税・贈与税の財産評価のための割合です。評価基準も「借地権の存在は必ずしも借地権の価格の存在を意味しない」と述べ、借地権取引の慣行の成熟の程度は地域によって異なるとしています。割合と実際の取引価格の違いは借地権割合と取引価格の違いをご覧ください。
同じ借地権でも「価格の見方」は一つではない
説明のための仮の数値です。実際の価格は契約内容・地代水準・残存期間等で大きく異なります。
- 対象地の更地価格:5,000万円(仮)
- 路線価図の借地権割合:60%(仮)
- 割合で計算した借地権の目安:5,000万円×60%=3,000万円
一方で、第三者に売る場合は地主の承諾と譲渡承諾料が必要になり、買い手も限られるため、この目安より低い価格しか付かないこともあり得ます。反対に地主に買い取ってもらう場合は、完全所有権の回復による増分をどう分け合うかによって、第三者への売却より高い水準で合意できる余地があります。
つまり「3,000万円」は一つの目安にすぎず、売買価格としてどの水準が合理的かは、契約条件と当事者の関係を踏まえて判断する必要があります。
売買価格が決まらなければ税金も決まらない
譲渡所得は、売買価格から取得費や譲渡費用を差し引いて計算するのが基本です。つまり、売買価格の水準そのものが税額に直結します。価格の根拠があいまいなまま契約すると、あとから「その価格は妥当だったのか」を説明できなくなるおそれがあります。
同族・親族間で借地権を地主に買い取ってもらう場合の注意点
親や親族が地主のケース
借地権の買取りが問題になる場面には、地主が親・兄弟・親族というケースも少なくありません。親族間では「身内だから安くていい」「適当な金額で」と価格を決めてしまいがちですが、ここに課税上の落とし穴があります。
相続税法第7条は、著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合、対価と時価との差額に相当する金額を、譲渡した者から贈与により取得したものとみなすと定めています。親族の地主が借地権を時価より大幅に安く買い取れば、買った側に贈与税の問題が生じ得るということです。反対に時価より高すぎる価格で買い取った場合も、差額部分の扱いが問題になり得ます。
法人が当事者になるケース
地主や借地人が同族会社(オーナー一族が支配する会社)である場合も注意が必要です。所得税法第59条は、個人が法人に対して著しく低い価額で資産を譲渡した場合、その時の価額で譲渡があったものとみなすと定めています。法人との取引では、個人側・法人側の双方で課税関係が生じ得るため、論点が複雑になります。どの価格水準なら問題がないかの判断は、必ず税理士にご確認ください。
「時価」を説明できる資料を残す
同族・親族間の取引で大切なのは、価格の根拠を第三者に説明できる形で残しておくことです。借地権の価格は、評価基準上、取引事例に基づく比準価格、土地残余法による収益価格、賃料差額(適正な地代と実際の地代との差)を還元した価格、借地権割合による価格などを関連づけて決定されます。当事者の都合で決めた金額ではなく、こうした手法で求めた鑑定評価額があれば、税理士が税務上の判断をする際の客観的な資料になります。
地主に借地権を買い取ってもらう前の準備
契約内容と経緯を整理する
売買価格を考える前提として、次の資料をそろえておくと話が早く進みます。
- 土地賃貸借契約書(更新の経緯、特約の有無)
- 地代の支払い状況と改定の履歴
- 建物の登記事項証明書と、過去に支払った承諾料・更新料の記録
地代の水準は借地権の価格に影響します。地代の相場については地代の適正額の考え方で解説しています。
税理士・鑑定士・宅建業者の役割分担
借地権を地主に買い取ってもらう場面では、専門家の役割を分けて考えると整理しやすくなります。
| 専門家 | 主な役割 |
|---|---|
| 不動産鑑定士 | 借地権の時価・妥当な売買価格の根拠を示す |
| 税理士 | 税額の計算、特例の適用可否、申告 |
| 宅建業者 | 売買条件の調整、契約手続き |
当事務所は宅建業者ではなく、売買や買取りは行いません。売却手続きが必要な場合は、地元の宅建業者をご紹介できます(紹介料は頂きません)。
価格の根拠づくりに鑑定評価を使う
地主が提示した金額が妥当かを確かめたい、親族間で時価を客観的に示したいといった場合、鑑定評価書(税別30万円〜)や価格等調査報告書(税別15万円〜)が選択肢になります。費用の詳細は料金をご覧ください。借地人の立場からの論点は借地人様へでもまとめています。
まとめ
- 借地権を地主に買い取ってもらうと、売る側には譲渡所得等、買う側には登録免許税・不動産取得税・印紙税などが関係し得る
- どの税金も、計算の出発点は売買価格であり、その価格が時価として説明できるかが重要になる
- 親族・同族会社との取引で時価から大きく離れた価格にすると、贈与とみなされる等の課税上の問題が生じ得る
- 税額・特例の判断は税理士に、価格の根拠は鑑定士に、と役割を分けて進めるのが安心です
地主への売却を検討している借地人様、親族間で借地権の整理を考えている地主様、顧客の借地権取引を担当される税理士の先生方(専門家の先生方へ)は、価格の根拠づくりからお手伝いします。初回のご相談は無料です。ぜひ一度ご相談ください。
REFERENCES
免責事項
本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。
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