借地権の売買で承諾料は誰が払う?売主・買主の負担と売買価格への織り込み方を不動産鑑定士が解説

借地権を売買するとき、地主に払う譲渡承諾料は売主と買主のどちらが負担するのか。地主との関係、地域の慣行、売買契約での取り決め、売買価格への織り込み方を、不動産鑑定評価基準の考え方とあわせて不動産鑑定士が整理します。

著者:吉田 健人·読了 約9分
借地権の売買で承諾料は誰が払う?売主・買主の負担と売買価格への織り込み方を不動産鑑定士が解説

「借地権を売ることになったけれど、地主さんに払う承諾料は売主の自分が出すのか、それとも買主に負担してもらえるのか」。借地権の売買では、この点があいまいなまま話が進み、決済の直前になって揉めることがあります。

結論から申し上げると、地主に対して承諾料を支払うのは借地人(売主)という整理が一般的ですが、売主と買主のあいだで誰が実質的に負担するかは、売買契約の取り決めと売買価格の決め方しだいです。名目上どちらが払うかよりも、「承諾料を含めた総額と手取り」で考えることが大切です。この記事では、私たち鑑定士の視点から、承諾料の負担者をめぐる考え方を整理します。

借地権の売買で承諾料は誰が払うのか──原則と地域の慣行

譲渡承諾料(名義書替料)とは

借地権(建物の所有を目的とする地上権または土地の賃借権)のうち、土地の賃借権を第三者に譲渡するには、地主の承諾が必要です。民法612条は賃借権の無断譲渡を禁じており、無断で譲渡すると契約解除の問題に発展しかねません。

この承諾を得る際に借地人から地主へ支払われる一時金が、譲渡承諾料です。「名義書替料」「名義変更料」とも呼ばれます。借地借家法には承諾料の額や支払義務を直接定めた条文はなく、当事者の合意で決まるのが基本です。詳しくは借地権の譲渡承諾料のページで解説しています。

地主との関係では「借地人(売主)」が払うのが一般的

承諾を求めるのは、契約の当事者である借地人です。そのため、地主との関係では借地人(売主)が承諾料を支払う形が一般的です。地主・家主の団体である日本地主家主協会の解説でも、譲渡承諾料は「借地人から地主へ支払われる」ものと説明されています。

ただし、これは「地主に対して誰が支払うか」の話です。売主と買主のあいだで最終的に誰が負担するかは、別の問題として考える必要があります。

評価基準が示す「譲受人・譲渡人のいずれが負担する地域か」

不動産鑑定評価基準(国土交通省)は、借地権の価格を求める際の考慮事項として、**「借地権の譲渡に当たって名義書替料を一般に譲受人又は譲渡人のいずれが負担する地域であるか」**を挙げています。

つまり、名義書替料を買主(譲受人)が負担する慣行のある地域もあれば、売主(譲渡人)が負担する地域もあるということです。「誰が払うか」に全国一律の答えはなく、地域の慣行によって異なり得ることを、評価基準自体が前提にしているのです。

売買契約で承諾料の負担をどう取り決めるか

売主負担・買主負担・分担の3パターン

売買契約上の負担の決め方は、おおむね次の3つです。

パターン内容注意点
売主負担売主が地主に支払い、売買代金から実質的に差し引かれる売主の手取りが減る
買主負担買主が地主に支払う(または売主経由で精算)その分、売買代金の引下げを求められやすい
分担一定割合ずつ負担する金額確定の時期と精算方法を明確にしておく

どのパターンでも、地主の承諾が得られなかった場合や承諾料の額が想定を超えた場合に契約をどう扱うかを、あらかじめ契約書に定めておくことが一般的です。契約条項の組み立ては法律問題ですので、詳しくは弁護士にご確認ください。

売買価格への織り込みで考える

CASE STUDY想定されるケース(架空)

承諾料の負担者を変えると何が変わるか

説明のための仮の数値です。実際の承諾料・借地権価格は個別の事情で大きく異なります。

借地権(建物付き)の市場での価値を2,000万円、地主から求められた譲渡承諾料を200万円(借地権価格の10%として試算)と仮定します。

  • 売主負担の場合:売買代金2,000万円、売主が承諾料200万円を支払う → 売主の手取り1,800万円、買主の支出2,000万円
  • 買主負担の場合:売買代金1,800万円、買主が承諾料200万円を支払う → 売主の手取り1,800万円、買主の支出2,000万円

負担者の名目が変わっても、売主の手取りと買主の総支出は同じです。

このように、承諾料は最終的に売買価格と一体で調整されるのが通常です。「承諾料は買主持ち」という条件を勝ち取っても、代金が同額下がれば実質は変わりません。交渉では、承諾料の負担者よりも承諾料を含めた総額に目を向けてください。

建替えを予定する買主には別の承諾料も

買主が購入後に建替えを予定している場合、譲渡承諾料とは別に、建替え(増改築)の承諾料が問題になることがあります。売買の段階で地主と建替えの可否まで話をしておかないと、買主が想定外の負担を抱えることになります。建替えの承諾料については建替え承諾料のページをご覧ください。

承諾料の目安と、地主が承諾しないときの借地非訟

一般に言われる目安

借地非訟(地主の承諾に代わる許可を裁判所に求める手続)の実務では、譲渡の承諾料は借地権価格の10%程度を基準に、諸事情を考慮して定められることが多いと紹介されています(日本地主家主協会の弁護士執筆の解説による)。

ただしこれは裁判所が許可する場合の目安であり、当事者間の交渉額を拘束するものではありません。また、基準となる「借地権価格」そのものをいくらと見るかで、承諾料の額は大きく変わります。

借地非訟で承諾料が定められる仕組み

地主が承諾しない場合、借地人は借地借家法19条1項に基づき、裁判所に譲渡の許可を申し立てることができます。裁判所は、第三者が借地権を取得しても地主に不利となるおそれがないかを判断し、許可を「財産上の給付」(いわゆる承諾料の支払)にかからせることができます。この場合、承諾料は申立人である借地人が支払う形で定められます。

一方、地主には、自ら建物と借地権を取得する旨を申し立てる「介入権」(19条3項)も認められています。介入権については借地非訟の介入権で詳しく解説しています。手続全体の流れは借地非訟と鑑定をご覧ください。

鑑定士の視点:承諾料は借地権価格とセットで見る

承諾料の土台は借地権価格

承諾料を「借地権価格の○%」と考える以上、土台となる借地権価格の見立てが正確でなければ、承諾料の議論も成り立ちません。評価基準は、借地権の価格を、借地権者に帰属する経済的利益(長期間安定して土地を使える利益や、適正な地代と実際の地代との差である「賃料差額」に基づく利益など)として捉えています。

そのうえで、取引慣行の成熟度、契約の経緯や残存期間、地代の水準、授受された一時金などを総合的に勘案して価格を求めます。路線価図の借地権割合を掛けただけの金額は課税上の目安にすぎず、そのまま売買価格や承諾料の土台になるとは限りません。詳しくは借地権の価格で解説しています。

勘定科目・税務の扱いは税理士へ

承諾料を支払った側・受け取った側の会計処理や、譲渡所得の計算上の扱いは、個人か法人か、事業用か居住用かなどで異なります。税務上の取扱いは税理士にご確認ください。

まとめ

  • 地主に承諾料を支払うのは借地人(売主)という整理が一般的
  • ただし評価基準も示すとおり、名義書替料を売主・買主のどちらが負担するかは地域の慣行で異なり得る
  • 売主・買主間の実質的な負担は、売買契約の取り決めと売買価格で決まる。総額と手取りで考える
  • 承諾料の目安は「借地権価格の10%程度」と紹介されることがあるが、土台となる借地権価格の見立てが重要

これから借地権を売ろうとしている借地人様、承諾料の提示を検討している地主様は、交渉の前に「借地権価格はいくらか」「承諾料はいくらが妥当か」を中立の立場で確認しておくことをおすすめします。当事務所は売買の当事者ではない不動産鑑定士として、根拠を示した価格を算定します。売却先を探す場合は、地元の宅建業者をご紹介できます(紹介料は頂きません)。

費用は料金ページをご覧ください。初回のご相談は無料です。ぜひ一度ご相談ください。

REFERENCES

  1. 借地借家法(e-Gov法令検索)
  2. 不動産鑑定評価基準(国土交通省)
  3. 日本地主家主協会「借地権の譲渡承諾料について教えてください。」
  4. 日本地主家主協会「第7回 借地非訟の概要」
  5. 東京地方裁判所民事第22部「借地非訟事件について」

免責事項

本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。

借地権・底地の価格や承諾料を不動産鑑定士がどう評価するか、費用や進め方は借地・底地の不動産鑑定のページでまとめています。

FREE CONSULTATION

鑑定が必要かどうかのご相談だけでも歓迎です

記事に関連するお悩みについて、不動産鑑定士に直接ご相談いただけます。

関連記事

借地非訟の介入権とは?地主が借地権を優先取得できる仕組みと「相当の対価」を不動産鑑定士が解説
交渉・紛争・借地非訟

借地非訟の介入権とは?地主が借地権を優先取得できる仕組みと「相当の対価」を不動産鑑定士が解説

借地人が借地権の譲渡許可を申し立てたとき、地主は自ら建物と借地権を取得する「介入権」を行使できます。借地借家法19条3項の仕組み、取下げ制限、鑑定委員会の役割、裁判所が定める「相当の対価」の考え方を、地主・借地人双方の視点から整理します。

読了 約9分

旧法借地権は買ってはいけない?そう言われる理由と、購入前に確認すべきポイントを不動産鑑定士が解説
借地・底地の基礎

旧法借地権は買ってはいけない?そう言われる理由と、購入前に確認すべきポイントを不動産鑑定士が解説

「旧法借地権は買ってはいけない」と言われるのはなぜか。承諾料・更新料・地代改定・建替え・融資・流動性の6つの論点に分解し、逆に旧法借地権が持つ強い存続保護というメリットも踏まえて、購入前の確認ポイントを不動産鑑定士が整理します。

読了 約9分

借地権付き建物に住宅ローンは付きにくい?金融機関が見るポイントと価格への影響を不動産鑑定士が解説
価格と評価の実務

借地権付き建物に住宅ローンは付きにくい?金融機関が見るポイントと価格への影響を不動産鑑定士が解説

借地権付き建物は住宅ローンが付きにくいと言われるのはなぜか。担保の中身、残存期間、地主の承諾、流動性という理由を一般論で整理し、ローンの付きやすさが買い手の範囲を通じて借地権の価格に影響する鑑定士の視点を解説します。

読了 約9分

電話で相談無料相談を申込む