借地・底地の基礎

借地権の名義変更は相続でも承諾料が必要?「譲渡」との違いと建物登記の注意点を不動産鑑定士が解説

親から相続した借地権の名義変更に、地主の承諾や名義変更料は必要なのか。相続と第三者への譲渡の違い、遺贈の場合の注意点、名義変更料を請求されたときの考え方、建物の相続登記と借地借家法10条の対抗力を解説します。

著者:吉田 健人·読了 約10分
借地権の名義変更は相続でも承諾料が必要?「譲渡」との違いと建物登記の注意点を不動産鑑定士が解説

「父が亡くなり、借地の上の家を相続した。地主さんから『名義変更料を払ってほしい』と言われたが、払わなければいけないのだろうか」。借地権(建物を所有するために他人の土地を借りる権利)を相続したあなたは、こうした戸惑いを抱えていないでしょうか。

結論からお伝えします。相続によって借地権を引き継ぐことは、第三者に借地権を売ったり贈与したりする「譲渡」とは法律上の位置づけが異なります。 そのため、売却のときに問題になる地主の承諾や承諾料の話を、そのまま相続に当てはめることはできません。一方で、遺贈(遺言で財産を与えること)の場合や、建物の登記を放置している場合には、別の注意点があります。本記事では、相続による借地権の名義変更で押さえておきたいポイントを、私たち鑑定士の視点から整理します。

相続による借地権の名義変更は「譲渡」ではない

相続人は借地権をそのまま引き継ぐ

民法第896条は、相続人は相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継すると定めています。借地権もこの「権利義務」に含まれるため、相続人は亡くなった方の借地人としての地位を、契約内容ごとそのまま引き継ぐと一般に説明されています。地代の支払義務や契約期間、特約も同じく引き継がれます。

地主の承諾が必要になるのは「譲渡・転貸」の場面

民法第612条は、賃借人は賃貸人の承諾を得なければ賃借権を譲り渡し、または転貸することができないと定め、違反した場合は契約の解除ができるとしています。借地の多くは土地の賃借権ですから、借地権を第三者に売却・贈与する場合には、原則として地主の承諾が必要です。

相続は、借地人が自らの意思で権利を渡す行為ではなく、法律上当然に権利が移転するものです。そのため、相続による承継には612条の承諾は不要と解するのが一般的です。売却時の承諾料の考え方は借地権の譲渡承諾料で詳しく解説しています。

「名義変更」という言葉の二つの意味

実務で「名義変更」と言うとき、次の二つが混同されがちです。

  • 地主との関係での名義:土地賃貸借契約書や地代の請求先を相続人に切り替えること
  • 登記上の名義:借地上の建物の登記を相続人名義に移すこと(相続登記)

前者は地主への通知で足りることが多く、契約書を新たに作り直すかどうかは当事者の話し合い次第です。後者は法務局での手続きで、後ほど説明する対抗力に直結します。

遺産分割・遺贈で借地権を引き継ぐ場合

遺産分割で相続人の一人が引き継ぐ場合

相続人が複数いる場合、遺産分割協議で「長男が借地権と建物を引き継ぐ」と決めることがあります。これも相続による承継の一環であり、第三者への譲渡とは異なると一般に説明されています。ただし、地主にとっては誰が借地人になったのかが重要ですから、分割協議がまとまったら速やかに伝えておくのが望ましいでしょう。

遺贈の場合は地主の承諾が問題になり得る

遺言で借地権を与える遺贈は、扱いが異なる可能性があります。特に、相続人ではない人(孫、内縁の配偶者、お世話になった知人など)に借地権を遺贈する場合は、譲渡に準じて地主の承諾が必要になると考えるのが一般的です。民法第990条は包括受遺者(遺産の全部または一定割合を受ける人)は相続人と同一の権利義務を有するとしていますが、遺贈の種類や受遺者によって考え方が分かれる場面もあります。遺言を作る段階、あるいは遺贈を受ける段階で、詳しくは弁護士にご確認ください。

承諾が得られないときは借地非訟という手段がある

地主の承諾が必要な場面で、地主に不利となるおそれがないのに承諾が得られない場合、借地借家法第19条により、裁判所に承諾に代わる許可を求める手続き(借地非訟)があります。裁判所は許可にあたって財産上の給付(いわゆる承諾料)の支払いを条件とすることができ、東京地方裁判所の案内によれば、鑑定委員会が承諾料額などについて意見を述べます。手続きの流れは借地非訟と鑑定をご覧ください。

相続で借地権の名義変更料を請求されたときの考え方

まずは契約書と請求の根拠を確認する

相続による承継には地主の承諾が不要と解されているため、名義変更料(承諾料)の支払義務が当然に生じるものではない、と一般に説明されています。とはいえ、契約書に独自の特約がないか、請求の対象が相続なのか、それとも相続後の売却や建替えを見越したものなのかは、確認が必要です。請求の根拠がわからないまま支払う必要はありませんが、感情的に拒否するのも得策ではありません。

評価基準が想定する「名義書替料」は譲渡の場面

不動産鑑定評価基準は、借地権の鑑定評価の留意点として、名義書替料を一般に譲受人・譲渡人のいずれが負担する地域かといった取引の態様を挙げています。これは借地権の売買(有償の継承)を前提とした記述です。また、借地非訟の実務で譲渡承諾料は借地権価格の10%程度を基準に諸事情を考慮して定められることが多いと紹介されていますが(日本地主家主協会の解説による)、これも裁判所が譲渡を許可する場合の目安であり、相続に当てはめるものではありません。

地主との長い付き合いを見据えて対応する

借地関係は、相続後も更新や建替え、将来の売却と長く続きます。建替えや増改築の場面では地主の承諾が必要になることがあり(建替え・増改築の承諾料)、関係が悪化すると交渉が難しくなりかねません。請求に応じるか、どの程度の金額なら合理的かを判断するためにも、借地権の価格や契約の経緯を客観的に把握しておくことが役立ちます。法的な支払義務の有無は弁護士にご確認ください。弁護士に依頼されていない方には、弁護士のご紹介も可能です。

建物の相続登記と借地権の対抗力(借地借家法10条)

借地権の対抗力は建物登記で確保する

借地借家法第10条は、借地権の登記がなくても、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有していれば、借地権を第三者に対抗できると定めています。対抗できるとは、たとえば地主が底地(借地権の付いた土地)を第三者に売ったとしても、新しい所有者に「自分には借地権がある」と主張できるという意味です。

相続登記を放置するリスク

条文は「借地権者が登記されている建物」を要件としています。相続後も建物の登記が亡くなった方の名義のままだと、対抗力をめぐって争いになるリスクが残ります。また、不動産登記法第76条の2により、相続で不動産の所有権を取得した人は、取得を知った日から3年以内に相続登記を申請しなければなりません。借地上の建物も対象です。

CASE STUDY想定されるケース(架空)

相続登記を後回しにしていた借地人

説明のための想定されるケースです。

  • 父が亡くなり、長男が借地上の建物と借地権を相続した
  • 地主には口頭で伝えたが、建物の登記は父名義のまま数年が経過
  • その間に地主が亡くなり、底地は地主の相続人から第三者へ売却された

このような場合、新しい底地所有者との間で借地権の対抗力が問題になるおそれがあります。相続登記を早めに済ませておけば、こうした不安定な状態を避けられます。法的な結論は事案ごとに異なるため、詳しくは弁護士にご確認ください。

相続税の評価と取引価格は別に考える

相続した借地権は、相続税の申告では路線価と借地権割合をもとに評価されます。相続での評価の考え方は相続における借地権・底地の評価で解説しています。ただし、この割合による評価は課税のための計算であり、将来売却する場合の価格とは一致しないことが多い点に注意が必要です。税務上の扱いは税理士にご確認ください。

まとめ

  • 相続による借地権の承継は、第三者への譲渡とは位置づけが異なり、民法612条の地主の承諾は不要と解するのが一般的
  • 相続人以外への遺贈は、地主の承諾が問題になり得る。承諾が得られない場合は借地非訟の手段がある
  • 名義変更料を請求されたら、契約書と請求の根拠を確認し、法的な判断は弁護士へ
  • 借地権の対抗力を確保するため、建物の相続登記は早めに済ませる

借地権を相続された借地人様、相続をきっかけに契約関係を整理したい地主様(地主様へ)、相続案件を担当される弁護士・税理士の先生方に、借地権の価格や承諾料の妥当性を中立の立場からお示しします。初回のご相談は無料です。ぜひ一度ご相談ください。

REFERENCES

  1. 民法(e-Gov法令検索)第612条・第896条・第990条
  2. 借地借家法(e-Gov法令検索)第10条・第19条
  3. 不動産登記法(e-Gov法令検索)第76条の2
  4. 不動産鑑定評価基準(国土交通省)
  5. 東京地方裁判所民事第22部「借地非訟事件について」

免責事項

本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。

借地権・底地の価格や承諾料を不動産鑑定士がどう評価するか、費用や進め方は借地・底地の不動産鑑定のページでまとめています。

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